化石燃料インフラ破壊を道徳的に擁護する アンドレアス・マルム

 箱田徹氏よりアンドレアス・マルムが「ガーディアン」に寄稿した最新テクストの翻訳が寄せられた。ルンド大学でヒューマンエコロジーを研究しているアンドレアス・マルムは先にHow to Blow Up a Pipelineを刊行し議論を呼んでいる。同書は箱田氏によって『パイプライン爆破法』(月曜社)として間もなく刊行される。アンドレアス・マルムの議論は気候運動の戦術の多様性をめぐる提起だが、戦術の問いは運動の根拠と倫理と表裏をなす。マルムが同書でいうとおり、もはや「何もしないことの言い訳などありえない」のであり、その際、マルムの問いを避けることはできない。

 

化石燃料インフラ破壊を道徳的に擁護する

アンドレアス・マルム

箱田徹訳

 

ガーディアン紙

2021年11月18日

https://www.theguardian.com/commentisfree/2021/nov/18/moral-case-destroying-fossil-fuel-infrastructure?CMP=twt_a-environment_b-gdneco

 

もし誰かがあなたの家に時限爆弾を仕掛けているとしたら、あなたにはそれを取り外す権利がある。同じことが私たちの地球にも言える。

 

気候闘争は新たな局面を迎えている。その特徴はさまざまな戦術の模索にある。そうやすやすとは無視されようがないもの、ビジネス・アズ・ユージュアルを実際に妨害するタイプのアクション、緊急ブレーキを引くやり方などだ。探求はまだ途に就いたところだが、新たな戦術の兆しはすでにある。

 

ベルリンでは、「最終世代」を名乗る〔当初は〕6人の若い気候活動家たちが最近〔2021年8月末から約1ヵ月にわたり〕ハンガーストライキを行った(1)。〔最終的には〕水分摂取すら拒否した人もいたが、体調を崩してしまい、ハンストを中止した。しかし、みずからの身体以外にもシャットダウン可能なものはある。化石ガス〔=液化天然ガス〕に反対するこの夏〔7月末〕のエンデ・ゲレンデ(Ende Gelände)のキャンプ(2)と関連して、「サボタージュのための金曜日」(Fridays for Sabotage)を名乗る一団は、ガス供給インフラの一部を破壊したと名乗り出て、運動に対してこの〔サボタージュという〕戦術を採用するよう強く求めた。「多くの場所が破壊されているが、抵抗が可能な場所もちょうど同じだけある」と。これに続いて、ドイツでは森の占拠の動きが群島をなすように生じており、石炭採掘設備にダメージを与えたものもある。

 

グローバルノースの話を続けよう。カナダや米国では、果てしなく続くパイプライン新設計画に反対する先住民たちの長く苦しい闘争から、絶望的な戦闘的行動(ミリタンシー)が生じている。原油を輸送する列車が、緊急ブレーキ信号を模倣する仕掛けをした活動家によって脱線させられているのである。

 

化石資本は気づかなければならない。新しい抵抗のかたちが生まれつつあるということを。

 

地球の一部はますます住むのが難しくなっている。しかし、こうした事実を繰り返す必要などまったくない。今やだれもが、頭の片隅では、なにが問題なのかをわかっている。それなのに私たちの政府は、化石燃料企業が石油、ガス、石炭を大地から掘り出す設備を拡大することを認めている。こうした企業に対して、何兆ドルもの補助金を湯水のように注ぐのを止めることすらできないのである。

 

ブラジルのボルソナロや米国のトランプのようなならず者の温暖化否定論者、あるいは化石燃料使用のさらなる拡大への移行を取り仕切る〔インドの〕モディ率いる極右政権に目を向けるまでもない。

 

フランスを例に取ろう。大統領が最も啓蒙された気候外交官を気取っている国だ。この国に本社を置く最大の民間企業、トタル社は〔中国海洋石油集団(CNOOC)とともに〕、今年、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)を着工する予定だ。この世界最長となる〔ウガンダからタンザニアまで続く〕パイプラインは、230本の河川をまたぎ、12の森林保護区を分断し、10万人を住んでいる土地から追い出すことになる。マクロン大統領はこのパイプラインを、この地域での「フランスの経済的プレゼンス」を高める絶好の機会だと支持しているのである。

 

あるいは米国を例に取ろう。バイデン政権の化石燃料企業への寛大さは前政権をしのいでおり、ジョージ・W・ブッシュ政権以来のペースで、掘削許可を矢継ぎ早に出している。同国では20件以上の化石燃料プロジェクト――パイプラインとガスターミナルの新設案件――が進んでおり、完成すればそれだけで石炭火力発電所404基分の排出量に相当することになる。

 

英国を見てみよう。政府は北海での石油とガスの「経済的回復の最大化」をいまだ公約としているが、これはつまり、できるだけ多くの石油とガスを汲み上げるということだ。ドイツはアウトバーンを延長し、炭鉱を拡張している。エクソンモービル社は、ガイアナのきわめて繊細な海洋生態系で、ハイリスクなオフショア型掘削プロジェクトを進めている。2020年から2022年の間に、シェル社は新規の大規模な石油・ガスプロジェクト21件を稼働させる予定だ。

 

全体としては、化石燃料の生産を、人道的に可能な限り早くゼロにする必要がある。しかし現実の世界では、生産者たちはまるで明日がないかのように採掘の拡大を計画し続けている。最近発表されたある論文によると、判明しているすべての埋蔵量の大部分を地中に残してようやく、1.5℃以上の温暖化を回避するわずかな可能性が見えてくる。正確には、2050年までに、全石炭の約90%、石油とガスは60%、非在来型石油の99%に手をつけてはならないのである。

 

しかし、こうした見通しは過小評価の可能性が高いと著者たちは強調する。このモデリングは、1・5℃目標の達成確率が50%で、フィードバックメカニズム〔少しでも平衡状態から外れると、変化が一気に加速すること〕が含まれていないからだ。もし確率を70~80%に引き上げ、気候システム崩壊の再帰的なループ――とりわけ森林火災――も仮に考慮に入れるとするなら、さらに多くの量が地下に留まらなければならないことになる。まさにその本性からして、化石資本はそうした限界を受け入れることができない。そうではなく、衝動的に、制約を受けることなしに、もっと多く採掘するものはないかと掘り進め、そしてまたさらに掘り進めるのである。

 

日を追うごとに、この結論への確信は深まる。この世界を支配する階級には、破局への対処を、破局を加速させる以外の方法で行うことが体質的に不可能なのだ。残念ながら、COP26では、この結論を改める説得的な理由づけはなされなかった。今回のサミットが終わって1週間も経たないうちに、バイデン政権は連邦政府による米国史上最大の〔メキシコ湾での〕海洋掘削入札を実施したのである。

 

グラスゴー気候合意〔=COP26の最終合意文書〕に署名したどこかの国の政府が、これまでとは異なる行動をとることを示唆するものはほぼ見当たらない。

 

では、私たちはどうすればいいのか。

 

私たちにはこの星を破壊する機械を破壊することができる。もし誰かがあなたの家に時限爆弾を仕掛けているとしたら、あなたにはそれを取り外す権利がある。さらに言えば、もし誰かがあなたの住んでいる高層ビルに発火物を仕掛けていたとしたら、そして建物の基礎がすでに燃えていて、地下室では死者が出ているところだとしたら、多くの人はその装置を停止させる義務があると考えるだろう。

 

私が言いたいのは、これが化石燃料資産の破壊を正当化する道徳的な議論だということだ。それは人の身体を傷つけることとはまったく別の話だ。それは道徳的に擁護できない。

 

そして、直接行動を道徳的に擁護するというほかならぬこの議論は、気候破局の実相が認識されれば、圧倒的な力をもつと私は考えている。この前提に立つなら、化石燃料資産が物理的に無傷のままにすることが優先されることなどまったくありえない。〔英国首相の〕ボリス・ジョンソンは最近、それを目論んでいるとおおむね受け取れる行動を見せた。〔北海で採掘許可申請が提出されている〕カンボ油ガス田を擁護する発言をしたのだ。これは、私たちが受け入れることのできない類の化石燃料インフラにたいする、次から次に出てくる新たな投資案件のひとつだ。ジョンソンは「〔2001年に交わされた〕契約を反故にはできない」と述べたのである(3)。

 

この見地からすれば、〔化石燃料を燃焼させて〕炎をいっそう高く吹き上げる装置を増強する企業家との契約は尊重されなければならない。それは他のどんな問題よりも優先される。しかし、そうした契約がなぜそこまで神聖であるべきなのか? 私からすればきわめて理解に苦しむことだ。

 

当面の間、気候破局を遅らせるということは、定義上、化石資本の破壊であることがわかるだろう。化石燃料でこれ以上利益を出すことはありえない。もし各国政府が,権力者たちからの指図のせいで、この作業に着手できないのであれば、その他の人びとがそれを行うべきだ。活動家たちが化石燃料の廃絶を実現できるからではなく――国家だけがその力を持っている――、かれらの役割は廃絶への圧力を高めることにあるからである。

 

では、グローバルノースの気候運動は、幹部や群衆を送り込み、実際に〔化石燃料の採取から燃焼までにかかわる〕装置を解体することで、その目標を達成できるのだろうか? 争う余地のない倫理的命法がいつでも効果的な行動を生み出すとは限らない。私たちはこの教訓を英国の高速道路の情景から得ている。インサレート・ブリテンの主な成果は、仕事に向かう労働者階級の人びとの激しい怒りをかき立てしまうことだったのである(4)。

 

私たちは破局のただなかにいる。時計はかなり進んでいるが、エスカレーションは始まったばかりだ。具体的にどうすればうまくいくのかはわからない。間違いないことがひとつだけある。私たちは死のスパイラルに陥っており、そこから抜け出さなければならないのだから、そのためにはもっと多くのことをやってみなければならない、ということだ。穏やかな抗議の日々はとうに過ぎ去っているのかもしれない。

 

訳注

1「最終世代のハンガーストライキ(Hungerstreik der letzten Generation)」と呼ばれるアクション(https://hungerstreik2021.de/)。総選挙を控えた主要政党の党首に直接対話を求めた。いずれの党首も、アンゲラ・メルケル首相〔当時〕を含め、ハンストが話題になったことを受けて一定の反応を示したが、いずれも選挙前の対話は拒んだ。社民党のオラフ・ショルツは選挙結果を受け、次期首相就任が確定した後の11月半ばに、ハンストをした2人との公開での対話に応じたが、曖昧な返答に終始した(Schöningh, Enno. Scholz trifft Klima-Aktivist:innen: Er kommt kaum zu Wort. Die Tageszeitung: taz, November 12, 2021, https://taz.de/!5815087/


2 エンデ・ゲレンデは、ハンブルク近郊のブルンスビュッテルにある液化天然ガス(LNG)を対象とする気候キャンプ型の行動(https://www.ende-gelaende.org/aktion-2021/)と、ハンブルクの移民やBIPoCの当事者団体との連帯を掲げた行動「反植民地主義アタック(https://www.ende-gelaende.org/aktion-antikoloniale-attacke/)」とを同時並行的に実施した。


3 スコットランドにあるシェットランド諸島沖でこのプロジェクトを進めるのは、シッカーポイント・エナジー社(Siccar Point Energy)。シェル社は権益の30%を2018年にシ社から購入したが、世界的な反対運動の高まりを受けて、2021年12月に撤退を発表した(Harvey, Fiona, and Fiona Harvey. “Shell Pulls out of Cambo Oilfield Project. The Guardian, December 2, 2021, https://www.theguardian.com/environment/2021/dec/02/shell-pulls-out-of-cambo-oilfield-project)。


4 インサレート・ブリテン(Insulate Britain)は、エクスティンクション・レベリオンから派生して2021年夏に結成された運動体(https://www.insulatebritain.com/)。団体名は、全国の住宅の断熱(インサレーション)を実現し、暖房効率を上げてエネルギー消費と光熱費支出を抑えることを、気候変動対策と貧困対策(社会住宅については2025年までの断熱完全実施を求めている)の組み合わせとして訴えていることに由来する。マルムがここで念頭に置いているのは2021年9月13日からの断続的な道路封鎖行動だろう。団体の活動の様子については、たとえばガーディアン紙によるドキュメンタリー動画を参照(Gayle, Damien, Maeve Shearlaw, Kyri Evangelou, Bruno Rinvolucri, Katie Lamborn and Charlie Phillips, “Why do so many people hate Insulate Britain? Inside the controversial protest movement. The Guardian, November 17, 2021, https://www.theguardian.com/global/video/2021/nov/17/why-do-so-many-people-hate-insulate-britain-inside-the-controversial-protest-movement)。なお高等裁判所は、初回の抗議行動の対象の一つとなった、ロンドン郊外の代表的な高速環状線M25について、今後の妨害行為を禁止する命令を出したが、運動側はこれを無視して10月にも行動を実施した。11月17日には、逮捕されたメンバーのうち9人に対し4ヵ月~6ヵ月の刑が宣告された(Gayle, Damien, “Nine Insulate Britain activists jailed for breach of road blockades injunction." The Guardian, November 17, 2021,https://www.theguardian.com/uk-news/2021/nov/17/nine-insulate-britain-activists-jailed-for-breach-of-road-blockades-injunction)。YouGovが10月に行った調査(https://docs.cdn.yougov.com/i9oekka8r4/Internal_ClimateProtests_211006_W.pdf)でによると、組織の認知度は高いものの行動に対する反発が7割程度とかなり強い。ただ交通妨害をした者の収監には6割近くが反対している。なお社会階層で見た場合、ABC1(≒ホワイトカラー)とC2DE(≒ブルーカラー)のあいだで反対と答えた人の割合は約7割と変わらない。

 

 

 

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